塩分

 

 東北地方は塩分摂取量が多く脳血管障害、胃ガンの多い地域です。塩分摂取が多い原因は寒さに対する保温・食糧確保の為、塩蔵の食材が多かった風習が挙げられます。塩分は高血圧から生活習慣病、胃粘膜障害から胃ガンのリスクを増大すると考えられています。

 塩分の1日必要量は計算式上1.5g前後ですが発汗、体のバランスを考えれば3g前後が適当と言われています。現在、日本人は1日平均10g以上の塩分を摂取しています。塩分摂取の少ない欧米、更にはWHO勧告では1日塩分摂取目標を5g以下にしています。醤油、味噌等を使用する食文化の日本では5gは無理であり現在、健常男子8g未満・女子7g未満、高血圧症患者6g、慢性腎臓病患者3-6gが目標とされています。なお狩猟と採集のみで生活している南米の先住民族は1日の塩分摂取量が0.5gと極端に少なく高血圧症は存在せず、加齢による血圧上昇もないことが報告されております。

 では何故、塩分は高血圧症に悪いのでしょうか?太古の時代、生物は海水の中で生活していましたが進化により魚から両生類になり陸の上に進出しました。陸上で生活するには体の塩分濃度を当時(太古の時代)の海水塩分濃度と同じ0.9%にする必要がありました。その為には塩分、水分の経口摂取を増やす、又は排泄を減らすしかありませんでした。しかし塩をめぐる世界史からもわかるように昔、塩は大変な貴重品でした。副腎から分泌されるアルドステロンは尿からナトリウム(塩分の成分)再吸収を促し、この過程で水分再吸収も促進されるので結果的に塩分・水分の排泄を減らし、体の中を海水と同じ状態に維持することを可能にしました。すなわち塩分不足の時代、アルドステロンは陸上の生き物にとって塩分を尿に出ないようにして生命を維持する不可欠なホルモンでした。

 しかし、現代日本人のような塩分摂取が多い状態では、アルドステロンは毒性を持つようになりました。すなわち、塩分過多でアルドステロンのナトリウム再吸収、水分保持作用が亢進していると血管内血液量が増加します。血管内血液量が増えるとフランク・スターリングの法則により心拍出量は増加、「心拍出量×血管抵抗」で規定される血圧は上昇します。血圧、特に収縮期圧が上昇すると血管内皮細胞障害等による動脈硬化が進行、血管抵抗増加から高血圧は増悪、脳血管障害、虚血性心疾患、慢性腎臓病を引き起こします。更に重要な事は血液中の塩分濃度が高いとアルドステロン自体が血管、臓器を攻撃、動脈硬化、臓器障害を促進することです。最近、アルドステロン分泌には内臓脂肪が分泌促進因子を介して関与している可能性が報告されており、内臓脂肪と高血圧症との関連から注目されています。なお塩分摂取で血圧があまり上昇しない高血圧症の患者さんがおり、食塩非感受性高血圧症と呼ばれています。このタイプでは血液中のアンジオテンシンⅡが血管を収縮させ、かつナトリウムの再吸収を促進、血管抵抗・血管内血液量増大から高血圧症を来たしていると考えられています。

 以上より高血圧症、特に食塩感受性高血圧症の患者さんには減塩が重要です。塩分制限には各自が1日の塩分摂取量を自覚、減塩の意識を高めることが必要です。加工食品には栄養成分が表示されています。2015年9月の食品表示法で、2020年までに塩分を食塩相当量として記載することが義務づけられました。しかし現在もナトリウム表示が多いので注意が必要です。塩分とは食塩(塩化ナトリウム:NaCl)であり、ナトリウムは食塩の成分ですので食塩相当量に換算するには計算式「ナトリウム量(g)x2.54=食塩相当量(g)」で算出する必要があります。加工食品には意外と多くの塩分を含んでいることお解り頂けると思います。

 血液中のナトリウムを下げるには塩分制限以外、カリウムを摂取することが有用です。カリウムはナトリウム再吸収を防ぐ作用があるからです。カリウム摂取の少ない地方では脳血管障害が多いとの報告もある程です。カリウムは野菜、果物、豆類に豊富に含まれていますが腎機能が低下している人は高カリウム血症になる場合があるので注意が必要です。