体温

 体温は通常、腋窩の中心部で測定、正常値は成人では36-37℃とされ、37℃以上を発熱、35℃台を低体温と判定します。もちろん生理的・年齢による変動、個人差もあるので普段から自分の平熱を覚えておくことが重要です。

 体温は免疫力に関係します。免疫力を正確に評価する指標はありませんが大凡、体温が上がると免疫力は高まり、下がると低下すると考えられています。では免疫力とはなんでしょうか?免疫力とは免疫細胞が病原体、ガン等の異常細胞から体を守るシステムです。免疫細胞は白血球に存在します。白血球には様々の免疫細胞がありますが大きく好中球・好酸球・好塩基球からなる顆粒球、B細胞・T細胞・ナチュラルキラー細胞からなるリンパ球、マクロファージ・樹状細胞からなる単球の3つに分類されます。これらの免疫細胞が連携しながら外部から侵入するウィルス、細菌等の病原体、体内で毎日3000-5000個発生するガン細胞を認識して攻撃、死滅させています。

 発熱とは免疫細胞がウィルスや細菌への攻撃力を上げる為の生体防御反応です。体温が上がると血液の流れが良くなり免疫細胞が体の隅々まで行くようになり、免疫細胞の動きも活発になるので免疫力が増加すると考えられるからです。外界からウィルスや細菌が侵入すると免疫細胞は攻撃を開始、同時にサイトカインを産生し脳に情報を伝えます。情報に基づき視床下部の体温調節中枢は体温上昇を指示、体表面の血管収縮、汗腺閉鎖が起こり熱放散は抑制、筋肉は収縮して熱を産生、発熱が起こります。感冒、インフルエンザ罹患時等、自覚症状が強くなければ無理に解熱するのは逆効果とされるのは発熱が生体防御反応であること、ウィルスの増殖も低体温で活発となるからです。入院中の患者さんが症状もないのに発熱、翌日には平熱になり検査も異常ないことがあります。患者さんの免疫力が勝った時と私は考えています。

  免疫力はガンと密接に関係します。ガンは自己細胞から発生した異常細胞であり、免疫細胞は毎日発生するガン細胞を認識、死滅させています。これを免疫監視機構と呼びます。しかしこの監視機構があってもガンはすり抜けて発症します。その理由としてはガン細胞が変異を繰り返した結果、免疫細胞がガン細胞を認識できなくなること、更には免疫力自体の低下の2つが理由として挙げられます。それ故、低体温、生活習慣等に注意して免疫力を維持することはガンの予防、治療に影響します。またガン細胞はウィルスと同様、35℃前後で増殖が盛んになるので、ガン患者さんは低体温にならない注意が必要です。

  では体温を維持するにはどうすればいいのでしょうか?一番の正攻法は筋肉をつけることです。筋肉は最大の熱産生器官なので筋肉がつくと体温は上昇します。人間の筋肉の約70%は下半身にあるので下半身、特に大腿部の筋肉をつけることが重要です。昔から「人は足から老いる」と言われますが、加齢で一番落ちるのは大腿部の筋肉です。大腿部の筋力をつけるには散歩、ジョギング、スクワットが有効です。日本人の体温が過去50年間低下傾向なのも生活が便利になり以前より歩かなくなったのが理由の一つと考えられています。食事では蛋白質を中心としたバランスの良い食事、根菜、発酵食品、干し生姜等を食べること、暖かい飲み物に留意することが必要です。また体温を維持するには亜鉛、マグネシウム、セレン等のミネラルとビタミンを補給すること、入浴の習慣が重要です。40-41℃のお風呂に10分入浴すると体温は1℃上がります。入浴することで副交感神経が刺激され血管が拡張、免疫細胞は体の隅々まで行くようになります。また入浴で体を温めると汗から老廃物が排出されるのでリンパの流れが改善、体内の有害物質が減少、免疫細胞の異物に対する反応は迅速になります。なお高齢者では41℃以上の浴槽温度、10分以上の入浴、浴槽と脱衣室の急激な温度変化は「ヒートショック」と言われる急激な血圧上昇を誘発する場合があり、循環器系のトラブルを来しやすいので注意が必要です。