インフルエンザ、新型コロナ、RS

発熱と呼吸器症状の人が受診した場合、注意すべきはウィルス感染症のインフルエンザ、新型コロナ、RS、EB、細菌感染症のマイコプラズマ、溶連菌です。特に重要なのは病院、施設などでクラスターを起こすインフルエンザ、新型コロナ、RSです。この3つのウィルス感染症は以前にも記載しましたが時間が経過しておりアップデートが必要と考えましたので以下に記載します。

 

1.【インフルエンザ】

インフルエンザ(以下インフル)の潜伏期は1-3日ですが若年者では短く高齢者では長くなる傾向があります。インフルはウィルス増殖が軽度でも症状がでやすいので、発症当日はウィルスが微量で抗原定性検査をすり抜ける可能性があります。発症当日に患者さんが受診された場合、インフル抗原定性検査が陰性でも翌日、陽性のことはよく経験します。それ故、周囲にインフル患者さんがいる風邪症状の人が発症当日に受診された場合、検査が陰性でもインフルの可能性が高く抗インフル薬を投与することは有用です。インフルウィルスの増殖を防ぎ発症、周囲への感染拡大を予防することが期待されるからです。同様に病院、施設などでのクラスター発生時、感染が疑われる人への抗インフル薬の予防投与はクラスター拡大防止に有効です。感染を予防しないもウィルスの放出、増殖を抑制、周囲への感染拡大を防ぐからです。なお抗インフル薬の予防投与は自費診療ですので注意が必要です。

抗インフル薬はインフルウィルスの放出もしくは増殖を抑制します。インフルウィルスの増殖は発症3日目がピークなので抗インフル薬は発症後2日以内に投与することが重要です。増殖が進行してから投与しても意味がありません。抗インフル薬にはオセルタミビル(タミフル)、バロキサビル(ゾフルーザ)、ザナビル(リレンザ)、ラニナビル(イナビル)、ペラミビル(ラピアクタ)があります。年齢、利便性。重症度などにより選択します。経口剤にはオセルタミビル、バロキサビルがあります。他の薬剤がウィルスの放出を抑制するのに対してパロキサビルはウィルスの増殖そのものを抑制、1回の服用で治療が終了しますが12才以下では耐性ウィルスが出現しやすいので注意が必要とされます。吸入薬にはラニナビル、ザナビルがあります。前者は朝、夕5日間の吸入、後者は1回の吸入で全身への副作用が少ないとされます。しかし高齢者では確実な吸入が難しい場合が多いようです。経口投与、吸入が不可能で重症化リスクのある場合は点滴のペラミビルを投与します。

現在の注射インフルワクチンは不活化ワクチンで、インフル重症化予防の観点から重要です。日本での65才以上の接種率は54.6%と低下傾向にあります。世界的にもワクチン接種率は低下傾向で反比例してインフル流行は拡大しています。ワクチン接種は高齢者のインフル発症リスクを34-55%、死亡を82%抑制するとの報告があります。インフルワクチンは2025年から4価ワクチンから3価ワクチンに変更されています。すなわちA型としてH1N1、H3B2、B型としてビクトリア系統の3価が採用され山形系統が除外されました。山形系統は2020年以降、ほとんど検出されていないのが理由です。2024年から2-18才では経鼻ワクチン(弱毒生ワクチン、フルミスト)が導入されました。弱毒化したインフルウィルスを経鼻投与(鼻スプレー)するので自然に近い免疫を誘導します。すなわち全身の液性・細胞性免疫以外、粘膜で働くIgA抗体も産生されるので粘膜からのインフルウィルスの侵入も防ぎます。従来の注射ワクチンはIgG抗体による下気道での重症化予防効果でしたが経鼻ワクチンは上気道での感染予防効果もあるのです。しかし経鼻ワクチンは生ワクチンなので接種者から周囲にウィルスが伝播する可能性あります。その為、周囲に免疫力が低下した人がいる場合は注射ワクチンが推奨されます。経鼻ワクチン投与後、子供が発熱、インフル抗原定性検査が陽性になった話を聞きますが生ワクチンによる為です。インフルワクチンは急速に進歩しており令和8年10月からは後期高齢者を対象に、より効果が期待される高用量インフルワクチンも予定されております。またmRNAワクチン、経口ワクチン、ユニバーサルワクチンの開発も進行中です。

 

2.【新型コロナ】

現在流行している新型コロナ感染症(以下COVID-19)はオミクロン派生株で、潜伏期は初期の野生株~デルタ株の5日に比較して3日と短いのが特徴です。野生型~デルタ株は主に下気道で増殖するので肺炎、重症化しやすいのが特徴でした。これに対して現在のオミクロン派生株は主に上気道で増殖する為、肺炎になりにくい反面、飛沫感染しやすいのが特徴です。症状としては強い咽頭痛、高熱、咳、倦怠感が多いとされます。またオミクロン派生株は野生株~デルタ株と異なり免疫を回避しやすいのでワクチン接種、感染で免疫を保有している人でも感染する可能性があります。それでもワクチンの重症化、死亡を減らす効果は49-79%と報告されており、特に高齢者、基礎疾患のある方で有効とされています。

COVID-19の確定診断は抗原定量検査、PCRでしたが最近では抗原定性検査の精度も確認されております。すなわち発症直後から1日目まではウィルス量が微量で抗原定性検査が偽陰性の可能性があります。しかし発症2-9日目で抗原定性検査が陰性なら感染を否定しても良いとされています。但し高齢者では感染初期に抗原定性検査が陰性でも感染の可能性は完全には否定できないので症状発現後2-3日は周囲への感染予防に注意する必要があると思います。なお2022年以降、インフルとの重複感染も報告されています。単独感染より症状が強く重症化の可能性も高いのでインフルとの同時2項目検査も広く行われています。

診断確定後は基礎疾患、重症化リスク因子、ワクチン歴、血中酸素飽和度、肺炎の有無などで患者さんの重症度を評価、マニュアルに従い治療します。抗ウィルス薬が必要と判断した場合はインフルと同様に早期投与が重要です。いずれにせよCOVID-19の病態、診断、治療指針は以前と比べて明確になっており感染症法上の位置付けも令和5年5月8日から5類感染症になっております。なおCOVID-19の後遺症にLong COVIDがあります。感染者の約1割で発症、倦怠感、思考力低下(ブレインフォグ)、味覚・嗅覚障害などの症状が短期間から長期間継続します。原因としてウィルスの持続感染、免疫異常、腸内細菌叢の乱れ、血管内皮障害、微小血栓、自己免疫などが考えられていますが単一の病態でなく複数の原因による症候群と考えられています。しかしオミクロン派生株以降、Long COVIDの頻度は低下傾向と報告されています。

感染予防は感染経路を考えることが重要です。飛沫・エアロゾル感染は主な感染経路であり、その予防にはマスク着用が有効です。マスクでは不織布マスクがベストで布マスク、ウレタンマスクの順に予防効果は低下します。不織布マスクもウィルスを通しますが吸い込み、吐きだしのウィルス量を70-80%抑制します。被爆するウィルス量が少ないと免疫力により感染しても発症が抑制されるので発症、周囲への感染拡大が予防されるのです。フェイスシールド、マウスシ-ルドは飛沫感染予防には効果なしとされています。机、家具などに付着したウィルスに接触することによる接触感染も重要ですが、その予防は手指衛生です。手の汚染がある場合は石けんと流水、汚染がない場合はアルコールを含む消毒薬が有効です。接触感染は皮膚からではなく粘膜経由なので汚染したと考えられる手を眼球結膜、鼻腔粘膜、口腔粘膜に触れない習慣も重要です。接触感染の予防に手袋の使用も有効ですが、その都度交換することが必要です。

COVID-19のワクチンは細胞性・液性免疫を介してウィルスを排除します。すなわちウィルスが感染するとヘルパーT細胞が活性化して免疫系に指令を出しキラーT細胞の感染細胞破壊、B細胞による中和抗体産生を促進します。またCOVID―19ワクチンはメモリーT細胞、メモリーB細胞も産生するのでウィルスが侵入した場合、キラーT細胞はより迅速にウィルスを排除します。B細胞により産生された中和抗体もウィルスを排除しますが効果は高齢者では数ケ月で減少します。しかしヘルパーT細胞はウィルスのスパイク蛋白を広範囲な部位を認識するので変異株が出現しても重症化予防効果が続くとされます。すなわちmRNAワクチンはキラーT細胞による細胞性免疫が主体なので効果は6ケ月~1年間継続するとされていました。しかしデルタ株以降のオミクロン派生株では従来の1価ワクチンの感染予防効果は低下、時間経過で更に低下することが判明しております。すなわちオミクロン派生株は免疫を回避する傾向があります。その為、現在のワクチンはデルタ株以前の従来株とオミクロン派生株の2種類の抗原を含む2価ワクチン(オミクロン派生株対応ワクチン)です。オミクロン派生株に対する感染、発症、重症化予防効果が期待されています。

 

3.【RS】

 乳児の場合、RSウィルス(以下RSV)は上気道で増殖するので症状が出現した場合、鼻咽頭での抗原定性検査で診断が容易であり、RSV感染症は小児科領域ではよく知られた感染症です。しかし成人の場合、上気道の免疫力が強いのでRSVに感染しても感染は上気道に限局、症状は数日で軽快します。その為、RSV感染症は内科領域では認知度が低い疾患です。しかし高齢者、特に基礎疾患のある人が感染するとRSVは上気道から下気道に拡大、気管支炎、肺炎を併発します。RSV感染症の流行は最近では春から初夏であり、この時期に一致して高齢者施設でのRSV集団感染が報告されています。高齢者施設では生活環境が密であり、多くの基礎疾患を持つ免疫不全状態の入所者が多いので集団感染が起こりやすいのです。

RSV感染症では特異的な抗ウィルス薬がないので早期診断、早期隔離と感染予防対策は重要です。しかし高齢者が気管支炎、肺炎を併発した場合、RSVは下気道で増殖すること、更には保険上の制約もありRSV感染症の診断は困難でした。しかし2020年1月、COVID-19が国内に持ち込まれ感染拡大により重症呼吸器感染症が増加すると、RSも含む他のウィルス、細菌による感染症との鑑別診断が重要となり多項目PCR検査であるFilmArray呼吸器パネルが条件付きで保険適用されております。すなわち“COVID-19が疑われ医学的に多項目検査が必要な場合”、成人でも保険診療の枠組みの中で多項目PCRが可能になっております。FilmArray呼吸器パネルではインフル、新型コロナ、RS等も含む9種のウィルスと4種の細菌を同時検出可能です。更に2022年には、より短時間で多種類のウィルス、細菌を同時検出できるBioFire SpotFire Rパネルも認可されています。現在、臨床の現場では重症呼吸器感染症としてCOVID-19を疑い多項目PCR検査が施行されRSV感染症と診断されるケースが多いようです。なお成人のRSV抗原定性検査は従来通り入院中の方のみが保険適応であり、またRSVの単独PCR検査は乳児、成人とも保険適応はありません。

RSV感染による抗体は長期間維持できず遺伝子も変異、RSVは再感染を繰り返します。小児ではRSVの流行時、10-20%が再感染すると言われています。高齢者、特に基礎疾患のある人も再感染を繰り返します。RSV感染症の肺炎併発率はインフルの約2倍であり、細菌重複感染による死亡率も高いとされます。肺炎を併発するとインフルに較べ治療期間が長くフレイルになりやすいともされます。インフル、COVID-19と較べて診断が難しいので高齢者の誤嚥性肺炎に中にはRSV感染が契機となっている人もいると考えられます。高齢者が多い施設、病院などでクラスターが発生、インフル、COVID-19が否定された場合、RSV感染症も疑うことが重要です。

RSV感染症の治療はRSVに対する特異的な抗ウィルス薬がないので対症療法です。肺炎を併発したなら肺炎の治療しかありません。それ故、早期診断、周囲への感染拡大予防対策が重要です。RSV感染は感染者の飛沫や鼻汁で汚染された手指、物品を介しても伝播、感染力も強いのでインフル、COVID-19と同様の感染予防対策が必要です。

令和6年より60才以上のRSV感染症に対する不活化ワクチン(アレックスビー)が認可されました。接種によりRSVによる気管支炎、肺炎の発症率、重症化、入院のリスクを1/5-1/4に減らすとされています。高齢者が多い施設、慢性期病院などでは朗報ですが高価なこと、RSV遺伝子が変異することより有効期間が短いなどの理由であまり普及していないのが現状です。

 

(2026年3月3日)