尿酸

 尿酸と聞くと思い浮かぶのが痛風です。昔は50才以上の男性に多かったのですが、最近は生活習慣の変化により30才代の男性によく見られるようになりました。痛風は高尿酸血症の症状のひとつです。しかし高尿酸血症で痛風発作を起こす割合は10%です。他の90%は無症状に経過しています。痛風発作がなく検診も受けていない人は高尿酸血症になっても知らないで過ごしている訳です。高尿酸血症は痛風以外、高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病など生活習慣病の危険因子です。無症候性の高尿酸血症を放置していると全身の臓器障害から生活習慣病となり最悪の場合、腎臓への尿酸沈着から腎機能低下、更には尿路結石も併発、腎不全が進行、人工透析になる場合があります。今回は尿酸について考えて見たいと思います。

 

 尿酸には外因性と内因性の2つの産生経路があります。プリン体を多く含む食品などから肝臓で産生されるのが外因性で、その割合は20-30%です。残りの70-80%は細胞の新陳代謝、エネルギー代謝により体内で産生される内因性の老廃物です。すなわち新陳代謝によりプリン体を含む核酸(DNA、RNA)が分解され、細胞内エネルギーとなるATPも消費、分解され、両者とも尿酸になります。すなわち尿酸は体内で常に作られています。

 尿酸値が上昇するのは尿酸産生が亢進している場合、腎臓からの排泄が低下している場合、両者が合併している場合です。女性に高尿酸血症が少ないのは女性ホルモンであるエストロゲンに尿酸排泄作用があるからです。尿酸の正常値上限は7mg/dlです。それ以上になると尿酸は血液に溶けにくくなり関節、全身の細胞内に取り込まれて臓器障害を起こします。関節に取り込まれた場合、尿酸は尿酸塩結晶となり関節内に析出、それを白血球が貪食、活性酸素などが放出され急性炎症から痛風発作が起こります。痛風発作を繰り返す人は前兆がありますが、発作部位の尿酸塩結晶に白血球が集まる時に感じるのです。この前兆時にコルヒチンを頓用すると発作の予防になることはよく知られています。

 血管、心臓、脂肪細胞等の全身の臓器には尿酸を取り込む尿酸トランスポーターが存在します。尿酸値が上昇するとトランスポーターにより尿酸が臓器に取り込まれ臓器障害を起こします。またプリン体から尿酸が産生される過程で尿酸産生酵素であるキサンチンオキシダーゼ(XO)が活性化、尿酸と同時に活性酸素の産生が増大、臓器障害が起こります。しかし正常値範囲内の尿酸には発生する活性酸素を消去する作用があります。すなわち尿酸は高濃度では臓器障害を起こしますが、正常濃度では血管内皮機能の維持から動脈硬化進展を予防する役割を果たしているのです。

 高尿酸血症治療の基本は食生活の改善です。プリン体を多く含む食品(レバー、肉、魚の干物、アンキモ、カツオ、クルマエビ、サンマ、たらこ、干し椎茸など)を控えることです。カロリーの過剰摂取、特に夕食に1日の大半のカロリーを摂取することは尿酸値を上げます。プリン体の多いビールが尿酸値を上げることは有名ですが他のアルコールも過剰に摂取すれば尿酸値を上昇させます。その機序としてはアルコールが体内で分解され尿酸産生が増加、尿からの排泄も阻害、更にはアルコールの利尿効果が考えられます。なおワインだけは尿酸値にあまり影響しないとされています。乳製品、特に牛乳、ヨーグルトは尿酸排泄を促進、尿酸値を低下させるので嫌いな人以外は積極的に摂取するのが良いと考えられます。

 散歩、水泳などの有酸素運動は尿酸値を低下させます。逆に激しい運動は筋肉でエネルギーとして使われるATPが分解され尿酸産生が増大すること、運動で産生される乳酸が尿酸排泄を阻害すること、更には無酸素運動により酸化ストレスも増大するので尿酸値は上昇します。スポーツ選手に高尿酸血症が多いのはこの為です。精神的ストレスはキサンチン酸化還元酵素(XOR)を活性化、尿酸産生と酸化ストレスを増大、尿酸値を上昇させます。肥満があるとインスリン抵抗性から高インスリン血症となり尿酸再吸収が亢進、尿酸値は上昇します。痛風患者の60%に肥満があるとされています。

 生活習慣の改善を行っても尿酸値が下がらない場合は尿酸降下剤を考慮します。尿酸降下剤には尿酸排泄を促進するもの(尿細管の尿酸トランスポーターによる再吸収を阻害)、尿酸の産生を抑制するもの(XORを阻害、尿酸産生を抑制)があります。治療の目標値は6mg/dl以下ですが急激な低下は痛風発作を誘発するので、降下剤は少量から開始することが重要です。降下剤の適応は生活習慣病のある人では尿酸値が8mg/dl以上、生活習慣病のない人では9mg/dl以上です。尿酸はアルカリ性の尿に溶けやすいので尿酸排泄を増やすには十分なる水分補給で尿量を確保、野菜、海藻、乳製品などの摂取で尿をアルカリ性にすることです。これは尿路結石の予防にもなります。尿酸降下剤のない1960年以前、医師は痛風予防に重曹を処方していました。