インフルエンザとCOVID-19

 新型コロナウィルスが猛威を奮っています。しかし風邪症候群の10-15%はコロナウィルスによるものです。コロナウィルス感染症は多くの動物に見られますが通常、動物の種固有のもので人には感染しません。しかしウィルスに変異が起こると人に感染するようになります。これが新型コロナウィルス感染症で過去にはSARS 、MERSがありました。今回の新型コロナウィルス(以下COVID-19)の場合、重症化、死亡はウィルスの毒性と細胞性免疫のバランスでウィルスを排除できなかった場合、2次感染を合併した場合、免疫細胞が過剰に反応するサイトカインストームから多臓器不全が起きた場合などです。今回はCOVID-19の経過から見えてきたインフルエンザウィルス(以下インフル)とCOVID-19の予防対策を考えてみたいと思います。

 

  COVID-19でも見られたように感染しても発症しない不顕性感染者がウィルス感染症には存在します。感染とはウィルスが侵入、細胞内で増殖するようになった状態、発症とは感染後、細胞性免疫がウィルス排除をできなくなり発熱、咳、倦怠感などの症状が出現した状態です。不顕性感染者には感染しても発症しない人、潜伏期の感染者が含まれます。発症にはウィルスに対する抗体の有無、細胞性免疫力、ウィルス毒性の強さなどが関係します。抗体は組織中や血液内のウィルスに結合してウィルスが細胞内に侵入するのを防ぎます。インフル予防注射は人為的な抗体です。抗体がウィルスに合わない(結合しない)場合、抗体産生が不十分の場合、インフルの毒性が抗体を凌ぐ場合、インフルは細胞内に侵入します。そのどちらでも細胞性免疫力により治癒した場合は、そのインフルに対する抗体が産生されます。高齢者は過去のインフル感染により種々のインフルに対する抗体を少なからず有しています。インフル発症者が若年者に多い理由です。今回のCOVID-19は誰もが抗体を持っていないのでウィルスは抗体に邪魔されずに細胞内に侵入、感染が拡大しているのです。なお不顕性感染が慢性化することを潜伏感染と言います。感染したウィルス、抗体、細胞性免疫のバランスが取れている状態です。ヘルペスがその例です。子供の頃、水痘になり治癒するも後日、免疫力が低下した時に帯状疱疹として発症するのはよく知られています。

 次は品切れになっているマスク(不織布でできたサージカルマスク、以下マスク)についてです。以前からインフルではマスクの予防効果はなく、不顕性感染者、もしくは発症者が他人に感染させるのを予防するのみとされてきました。インフルは飛沫感染、接触感染が主体です。マスクの穴は5μmですがインフル単体は径0.1μmですのでマスクはインフル単体には無効です。しかしインフル単体が空気中を飛ぶこと(飛沫核感染)はよほど感染力の強いインフルで、室内が極端に乾燥した状況以外はないと考えられます。咳によるウィルスが含まれている飛沫は径3-5μmでマスクの穴とほぼ同じですが、マスクの感染予防効果は期待できません。しかしインフルに不顕性感染、又は発症している人の鼻腔・口腔出口での飛沫は集簇して5μmより大きいと考えられます。その為、咳による飛沫は主にマスクの中心部に付着、飛沫感染のリスクを減らすと考えられます。すなわちマスクは咳エチケットでもある訳です。COVID-19も径0.08-0.12μmですのでインフルと同様、マスクはCOVID-19の感染予防に無効、感染拡大に有効です。米国疾病対策センター(CDC)もCOVID-19の感染予防にマスクを推奨しておりません。インフル、COVID-19とも不顕性感染、あるいは発症して治癒した場合、抗体が産生され次回の感染、発症を予防します。しかしその過程で高齢者、糖尿病、呼吸不全、ガンなど免疫力の低下した人などに感染させると重症化、死亡者が出るのです。すなわち地域にインフル、COVID-19感染者が存在する状況で、どこか体調の異変を感じたらマスクをすることがインフル、COVID-19の死亡率を低下させるのです。インフルの場合、潜伏期が1-3日ですがCOVID-19では3-14日と考えられているので、より長期のマスク着用が必要です。なおインフル、もしくはCOVID-19の流行がない地域に住み、且つ地域から出ない人にはマスクは不要と考えます。余談になりますがマスクをしながら一人で車を運転している人、大自然の中でマスクをしている人を見かけますが、花粉症の人以外では同様の理由で無意味と思います。しかし神経質になりすぎてマスクを頻回に交換したり、着け直したりすると交換時、飛沫が付着しているマスクの表面に触れ、その手が口、鼻、結膜に触れることより接触感染を起こします。すなわちマスク交換は必要ですが交換時にはマスクのゴムの部分を持って外し、マスク表面には触れない注意が必要です。またマスク交換後の手指消毒も重要です。臨床の現場にいると、いつもマスクを着用している医療従事者に限り毎年インフルを発症、逆にマスクを着用しない人が発症しないことがあります。この理由は以上で説明できると思います。微粒子用マスクであるN95マスクは0.3μm以上の微粒子を95%以上遮断するので正しく着用すればインフル、COVID-19の飛沫予防には有効となります。しかし顔に合わないとN95マスクの脇から飛沫が侵入、もしくは漏れる可能性があります。N95マスクも交換時にはマスクと同じ注意が必要です。

 マスクには別の役割があります。接触感染の予防です。ウィルス感染症は予想以上に接触感染が多いのが私の印象です。感染者の飛沫、あるいは手洗い不十分によりドアノブ、手すりなどにインフルが付着した場合、インフルは2時間、状況によっては最長1-2日生存していると考えられています。ウィルスが付着した箇所に触れた手を口、鼻、結膜などに触れると接蝕感染を起こします。マスクを装着するとその機会が減るので感染が防げる訳です。接触感染の予防には外出後の手洗い、トイレ後(糞口感染:インフル、SARSでは糞便からウィルス検出あり)・食事前の手洗いが重要です。更にはインフル流行時、オニギリ、サンドウィッチなどを素手で食べない注意、ドアノブ、手すりなどに触れた後の手指消毒も必要です。COVID-19の場合、付着後のウィルス生存期間は3-7日とインフルより長いと考えられていますので、より厳重な注意が必要と考えられます。

 感染後の発症を予防するには細胞性免疫力を高めることです。栄養、有酸素運動、睡眠、休養、笑い、過労、ストレスなどに注意することです。ビタミンDもマクロファージを活性化するので良いかも知れません。お茶、紅茶などの暖かい飲み物、下着、入浴などで保温に注意することも免疫力維持には重要です。微熱がある時の短時間入浴は湯冷めさえしなければ推奨されます。免疫力は37℃前半当たりで最強となるので微熱があっても、むやみに解熱剤を使用しないことです。また普段から有酸素運動で筋肉を維持することも体温維持に重要です。なお喫煙はインフル発症率を約5倍にするとも言われていますのでCOVID-19の場合も注意が必要です。

 最後にCOVID-19に感染しても重症化、死亡する人は新型インフルに較べて多くはないと思います。しかしCOVID-19は潜伏期間が長く不顕性感染も多いようなので潜在感染者はかなり多くなると推定されます。感染しても大部分が不顕性感染、もしくは軽症で経過、COVID-19に対する抗体が産生され、その間、ウィルスの毒性も弱くなり流行が終息すると考えられます。その日まで、国民の一人一人が体調管理に注意して細胞性免疫力を維持、不必要な外出、集会、旅行を控え、外出後の手洗い、更には体調の異変を感じたらマスクを着用、周囲に感染を広げない注意が必要と思います。(2020年2月17日)