COVID-19の病原体検査

COVID-19の感染は症状、濃厚接触歴、画像検査、病原体検査により診断します。確定診断に重要なのが病原体検査です。病原体検査には遺伝子検査、抗原検査、抗体検査があります。しかし抗体検査は感染の既往が判るのみで確定診断の検査には指定されていません。今回はCOVID-19感染の診断根拠となる遺伝子検査、抗原検査について記載します。

 

遺伝子検査にはウィルス遺伝子を特異的に増幅するPolymerase Chain Reaction法(以下PCR)が用いられています。PCRにはウィルスの定性検査であるLAMP法と、定量検査であるリアルタイムーPCR(以下RT-PCR)があります。LAMP法は一定温度、1工程で遺伝子を増幅、検体中にCOVID-19の遺伝子が存在するかを検出する方法です。一定温度で遺伝子を増幅するため簡便な機器で検査可能であり、結果も短時間で判明します。しかしRT-PCRに較べて感度が低く疑陽性になる例も報告されています。これに対してRT-PCRは検体からウィルスに特異的な遺伝子配列を増幅、検出する方法です。ウィルス検出の感度が高く、5コピー(RNA遺伝子配列の数)程度のウィルス量から推定可能です。通常、PCRと言えばRT-PCRのことです。現在、手軽に受けられる民間PCRもRT-PCRです。RT-PCRはCOVID-19の最終検査ですが高価な機器、習熟した検査技師が必要で、結果判明まで時間を要するなどの課題もあります。RT-PCR陽性ならCOVID-19の感染が確定します。

他の病原体検査として抗原検査があります。抗原とは特異的な抗体と結合できる物質の総称です。COVID-19の場合、抗原検査とはCOVID-19表面の特殊蛋白に特異的な抗体を用い、COVID-19の存在を診断する方法です。抗原検査にも定性、定量検査があります。抗原定性検査は抗原検出用キットを用いた簡便な検査法ですが、感度がRT-PCRの約1/20であり、ウィルス量が少ないと陰性になる可能性があります。現在、鼻咽頭、鼻腔検体による定性検査は発症後2日目から9日目まで適用されます。10日目以降はウィルス量が更に少なくなるのでRT-PCRを施行する必要があります。一方、抗原定量検査は測定機器が必要であり何処でもできる検査ではありませんが、COVID-19の抗原量(=ウィルス量)を推定することが可能でPCRのLAMP法と同等の感度があります。当初は抗原定性検査陰性でも検査の感度が低いので、確定診断のためRT-PCRが必要とされていました。しかし、その後の研究で発症後2-9日間の有症状者では抗原定性検査とRT-PCRが一致することが判明しております。それ故、発症2-9日の有症状者で抗原定性陰性の場合はCOVID-19感染の除外診断が可能となっております。抗原定性陽性の場合はCOVID-19の感染と診断しますが検体の粘性が高い場合、小児の場合に疑陽性が生じる可能性が報告されており、状況に応じてRT-PCRによる確認が必要です。

現在、COVID-19診断の病原体検査として行われているのはRT-PCR、抗原定性・定量検査です。その使い分けは、感染後のウィルス量の変化と検査法の感度により決まります。すなわち症状出現後2-9日の患者さんではRT-PCR又は抗原定性・定量検査(必要に応じてRT-PCR)、症状発現日もしくは10日目以降はRT-PCR、抗原定量検査、濃厚接触者で有症状者は濃厚接触日からの日数で症状発現者と同じプロトコール、無症状者はRT-PCR、抗原定量検査です。すべてに共通するのが最も感度の高いRT-PCRでありRT-PCRが可能なら他の検査は不要になります。しかしRT-PCRにも注意すべき点があります。すなわちCOVID-19の潜伏期は1-14日(平均5-6日)、感染伝播は症状発現2日前から発現後7-10目の間、特に5-6日目までが最も起こりやすいとの報告があります。潜伏期はウィルス量が少なくRT-PCRが陰性となる可能性が高いとされています。その為、濃厚接触で感染した人が潜伏期にRT-PCRを受け陰性となった場合、自己隔離を解除して後日、感染を拡げる可能性があります。以上より濃厚接触歴、症状などで感染が強く疑われる場合はRT-PCR陰性でも自己隔離を継続、5-6日後にRT-PCRを再検することが必要です。またCOVID-19は症状発現後10日経てば感染力はないとされています。しかしCOVID-19感染者、特に重症者ではRT-PCR陽性が3-4週間続く場合があります。この理由として感染後、時間が経過した場合はRT-PCRがウィルスの死骸を検出している可能性が考えられます。すなわちRTーPCR陽性のみではCOVID-19の感染力は判定できないことに注意が必要です。

世界的にCOVID-19の第3波による感染拡大が続いています。日本での感染者急増はクラスターの多発、無症候感染者増加による職場内・家庭内感染、Go To キャンペーンなどによる接触機会の増加と気の緩みなどによると考えられます。特に家庭内感染が著明に増加していることは若年・壮年者の無症候感染者(潜伏期の感染者を含む)が増加していることを示唆します。これを防ぐにはワクチンの開発・接種と伴に国民の一人一人がCOVID-19を正しく理解し、危機意識を持ちながら行動することだと思います。最近、変異株、特に欧州変異株は感染力が強い(=細胞内に侵入しやすく増殖力も強い)との報告があります。侵入するウィルス量が多いと細胞性免疫では防御できなくなり発症、重症化するリスクも高いとも考えられます。今後、海外からの変異株流入に対する水際対策も重要と思います。

(令和2年12月23日)