慢性閉塞性肺疾患

 慢性閉塞性肺疾患(COPD: Chronic Obstructive Pulmonary Disease)とは主に喫煙などの有害物質の長期曝露により肺の炎症病変から気道の気流制限を起こした疾患です。具体的には気道の閉塞性障害の指標である1秒率が気管支拡張薬投与後にも70%未満で他の閉塞性換気障害をきたす肺疾患を除外できればCOPDと診断します。COPDの病気は気流閉塞の程度により軽度、中等度、高度、極めて高度に分類されます。外来を受診するCOPD患者さんの大部分は中等度気道閉塞です。2014年の厚生労働省の調査ではCOPDと診断された患者さんは全国で約26万人であり、500万人以上が未受診者と推定されています。すなわち軽度、中等度のCOPDは糖尿病と同じく無症状、無自覚に進行する疾患です。

 COPDには慢性気管支炎と慢性肺気腫があります。前者では気管支傷害から気道分泌過剰状態をきたし末梢気道の炎症から狭窄が起こり、喀痰、咳嗽が出現します。後者では肺胞壁破壊からガス交換が障害、息を出しにくくなり肺は過膨張、労作時の息切れ、呼吸困難が出現します。COPDに気管支喘息が併発した場合はACO(Asthma  and COPD Overlap)と診断します。ACOはCOPDの10%に合併するとされています。

 COPDは炎症性サイトカインの増加から全身性疾患として栄養障害、心血管疾患、骨粗鬆症、糖尿病、うつ病などにも関連していることが判明しています。その原因の大部分は喫煙とされています。しかしCOPD患者さんの90%に喫煙歴がある一方、喫煙者におけるCOPD発症の割合は15-20%とされています。この解離の理由として喫煙に対する気道の感受性には遺伝的要素があると考えられています。それ故、親族に喫煙歴があるCOPD患者さんがいる人は喫煙には受動喫煙も含めて十分注意すべきと思います。なお喫煙歴のない人もCOPDを発症する場合があります。その原因として受動喫煙、α1-アンチトリプシン欠乏症などが考えられています。

 COPDでは喫煙開始後、無症状に病状は進行、約30年で症状が出現するとされています。この時期になると労作時の息切れ、呼吸苦から歩行距離、活動度は低下、呼吸不全、右心不全を併発します。COPDの予後を増悪する因子として喫煙継続、男性、高齢者、痩せ、感染などが挙げられます。COPD患者さんがインフルエンザ、肺炎を繰り返すと気道病変の進行から呼吸不全は増悪、予後は不良となります。その為、COPD患者さんは常日頃から感染予防に努め、インフルエンザ・肺炎球菌ワクチンを受けることが重要です。

 症状が出現したCOPD患者さんでは身体・精神的機能が低下、フレイルになりやすくなります。その為、COPDでは治療と共に身体を動かし、活動的に過ごすことが重要です。適度な運動、歩いて通勤、買物をする以外、毎日の散歩だけでも効果があります。呼吸不全が進行したCOPD患者さんでは教育、栄養、呼吸訓練も含めた呼吸リハビリ、在宅酸素療法(HOT)も考慮します。動脈血血液ガス分析で動脈血酸素分圧が60mmHg以下(パルスオキシメータによる動脈血酸素飽和度90%以下)、もしくは安静時60mmHg以上でも労作で60mmHg以下に低下する場合、HOTが適応になります。呼吸不全がさらに進行した終末期では動脈血二酸化炭素分圧が増加、軽度の労作も困難になるので非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)による換気補助が必要な場合もあります。

 COPDの薬物治療には長時間作用性β2刺激薬(LABA)吸入と長時間作用性抗コリン薬(LAMA)吸入が使用されます。LABAは気道に広く分布するβ2受容体に作用、気管支を拡張、抗炎症効果があります。LAMAは気道表面に分布するコリン作動性神経のM3受容体に働きアセチルコリンによる気管支収縮を抑制、気管支を拡張しますが抗炎症効果はありません。COPDにおける気管支拡張効果はLAMA>LABAでありLAMAは急性増悪予防、LABAは症状改善に有効とされています。両者には相乗効果があり最近では合剤(LAMA/LABA)が使われています。なおLAMAは前立腺肥大症、閉塞隅角性緑内障の人には使用できません。労作時の呼吸困難には必要に応じて短時間作用性β2刺激薬(SABA)吸入を頓用します。強力な抗炎症効果がある吸入ステロイド薬(ICS)はCOPDではあまり有効ではありませんが気管支喘息を併発したACOでは考慮します。

 COPDは慢性の進行性疾患なので一度発症すれば治ることはありません。COPDの進行は初期に早いので早期診断、早期禁煙が発症予防、進行抑制に効果的です。その為には喫煙指数(喫煙の本数x年数)が200以上で40才以上の人は毎年胸部X線、呼吸機能検査を受け、診断確定後は禁煙、薬物治療、運動、栄養療法などで自己管理を続けることが重要なのです。