ガンと生活習慣

細胞が死に陥ると規則正しく新しい細胞に取り換えられます。しかし一定の条件下で規則を無視して増殖する細胞が出現します。この細胞がガン細胞であり、ガン細胞が出現することをガン化と言います。ガン細胞は次第に塊(腫瘍)を作り、発生した臓器の機能を傷害、進行すると血管、リンパ管を通り遠隔転移、末期ガンとなります。

ガン細胞を考えるには生命の歴史が参考になります。38億年前、地球の原始生命は酸素を必要としない不老不死の単細胞でした。しかし地球に藻類が誕生、光合成が始まると地球の酸素濃度は上昇、細胞は生存の危機に陥りました。これを助けたのが好気性菌です。すなわち20億年前、酸素を利用する好気性菌が単細胞に合体、ミトコンドリアになり細胞は酸素を活用できるようになりました。しかし酸素を利用する過程で廃棄物である活性酸素が発生、細胞に寿命が生じたのです。ガン細胞は原始時代の単細胞により近い細胞であり、低酸素に強く正常細胞のように自然死しないのが特徴です。

ガン細胞は毎日約5000個発生しています。発生したガン細胞は通常、ガン抑制遺伝子、細胞性免疫により抑制、破壊されますが何らかの原因で両者の力が低下した時、ガン細胞は増殖します。ガン細胞の増殖を抑制するには細胞性免疫力を強化することが重要です。細胞性免疫には樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、T細胞などがありますが攻撃の主役はT細胞です。しかしガン細胞はT細胞に攻撃回避の指令をだし(免疫回避)、免疫細胞の攻撃から逃れようとします。この仕組みを免疫チェックポイントと呼びガン細胞の特徴とされます。この回避を抑制、ガンを治療する薬剤が免疫チェックポイント阻害薬です。

ガンにはステージがあります。正常細胞から遺伝子障害発生までの細胞性免疫排除レベル、ガン化した細胞が増殖している超早期レベル、超音波、内視鏡、CT、MRI、PETなどで明らかにガンと診断可能な早期、通常診断レベルです。早期、通常診断レベルでは手術、薬物療法、放射線療法、免疫療法などの治療介入が必須となります。しかし超早期レベルでは生活習慣の改善がガンを予防するとされます。すなわちガンには高血圧症、糖尿病などと同じ生活習慣病の一面があるのです。以下にガン予防で注意すべき生活習慣上の注意を記載します。

喫煙は生活習慣によるガンの原因において男性では第一位、女性でも第二位です。喫煙はタールなどの約200種類の有害物質を含有、加えて活性酸素も遊離、ガン化を促進します。また副流煙も肺ガンのリスクを上げるので受動喫煙を避けることも重要です。喫煙は肺ガン、食道ガン、胃ガン、膵ガン、前立腺ガンを始めとする様々な臓器のガンを引き起こします。また喫煙習慣のある人が飲酒をすると飲酒量が増えるにつれてガン化のリスクは飛躍的に増大します。すなわち喫煙と飲酒はガン化に関して相乗効果があります。

飲酒もガン化を促進します。特に食道ガン、大腸ガン、膵ガンのリスクを増大させます。日本人はアルコールの代謝が悪く発ガン物質が生じやすいとされます。日本酒なら1合、ビール500ml、ウィスキーダブルⅠ杯、焼酎2/3合、ワイン1/3本が限度とされますが個人個人で代謝が異なるので適量を守ることが重要です。少量の飲酒で顔がすぐ赤くなる人は食道ガンのリスクが高いとされます。

食事では野菜、果物、豆類は活性酸素を減らし、唐辛子、生姜は体温を上げ免疫力を強めてガン予防に有効とされます。塩分、塩蔵品は粘膜傷害から胃ガンのリスクとなります。山形県、秋田県に胃ガンの多い理由は過剰な塩分摂取と考えられています。熱い飲み物、食事は食道ガン、赤肉・加工肉の過剰摂取は大腸ガンのリスクを増大させるとされます。

体温の維持は重要です。ガン細胞は性質上、低温には強いのですが低体温で細胞性免疫力が低下すると増殖は亢進します。ガン細胞が最も増殖する体温は35℃です。ちなみに免疫力が強くなるのは36.5℃以上であり、37.5―38℃で最強になります。体温の維持には温かい食事、入浴、さらには運動で下肢の筋力をつけることが重要です。

体重管理も必要です。肥満は過剰な糖分を処理する為に高インスリン血症をきたしガン細胞増殖を促進します。高血糖自体も活性酸素を増加させます。また肥満によるホルモンバランスの変化は子宮体ガン、閉経後乳ガン、前立腺ガンなどのリスクを上昇させるとされます。一方、痩せは筋肉量低下による体温の低下から細胞性免疫力が低下、ガン細胞増殖を進行させます。肺ガン、閉経前乳ガンが代表です。体重はBMIで男性21-27、女性21-25が適切と考えられています。

適度な運動もガンを予防します。散歩、ランニングなどの有酸素運動、筋トレが有効です。有酸素運動は活性酸素の発生が少なく副交感神経を刺激、リンパ球活性増加より細胞性免疫力を強化します。運動を持続すると一酸化窒素(NO)が産生され血管は拡張、免疫細胞のパトロールが体の隅々まで行きわたります。また高インスリン血症の改善からガン細胞増殖を抑制します。さらにはセロトニン分泌も増やし心の健康も改善、精神的ストレスを減らしガン化を予防します。運動が予防するガンには結腸ガン、閉経後乳ガンなどがあります。結腸ガンの場合、上記の理由以外、運動による腸管運動の促進が便中発ガン物質の腸内停留時間を短縮する為とも考えられています。

夜間の適切な睡眠は昼間に傷害された細胞を修復、ガン化を防ぎます。睡眠中は副交感神経の活性が高く細胞性免疫を担うT細胞、ナチュラルキラー細胞などの活性が高くなりガン化を予防しています。

感染によるガンは日本人のガンの原因において約20%を占め、女性では第一位、男性でも第二位です。感染が関わるガンには胃ガン、肝ガン、子宮頸ガン、中咽頭ガン、成人T細胞白血病などがあります。感染予防、除菌、抗ウィルス療法、ワクチンなどが重要です。

ガンの原因は多種多様です。ガン化には生活習慣以外に遺伝的因子、偶然の因子もあり予防が難しい場合も多々あります。しかし生活習慣が関与するガンは生活を見直すことでリスクは半減するとされます。すなわちガンを防ぐにはまずガン情報を正しく理解、その上で生活習慣の改善に取り組むことが必要です。また定期健診を受け、異常があったら受診することも重要です。