テロメア

 老化の原因として酸化ストレス説、糖化説、腸の老化説、テロメア説、遺伝子説等があります。今回はテロメア説について述べてみます。

テロメアとは細胞の染色体末端にある構造蛋白体で、遺伝子情報を保つDNAを保護しています。細胞分裂のたびにDNAは複製されますが、末端は複製されないのでテロメアは短くなります。テロメアが「ヘイフリック限界」と呼ばれる長さを超えて短くなると細胞は分裂不可能になり死に至ります。テロメア説とは、細胞分裂によりテロメアが短くなると老化が進行するとの説です。実例として寿命20年と言われる早老症ではテロメアが短いこと、100歳以上の超高齢者ではテロメアが長いことが報告されています。

 テロメアにはテロメラーゼと呼ばれる合成酵素が存在、テロメアを長い状態に維持しています。テロメラーゼ活性は正常な体細胞では見られませんが幹細胞、生殖細胞、ガン細胞では高い値を示します。特にガン細胞には大量のテロメラーゼが存在するのでテロメアによる制御を受けず、ガン細胞は無制限に分裂を繰り返します。正常の体細胞はテロメラーゼ活性を示さないのでガン細胞の高いテロメラーゼ活性がガン治療の指標になる可能性もあり、種々の研究が進められています。

 テロメアの長さは個人個人で異なります。またテロメア長さの減少率は男性に較べて女性が少ないとされ、女性の平均寿命が長い原因の一つと推測されています。生活習慣でもテロメアの長さは変化します。タバコを20本、10年間毎日吸う人は5歳分、肥満の人は8歳分、運動習慣なしの人は10歳分、テロメアが短いとの報告があります。糖化は細胞機能低下を起こし、結果的に細胞分裂を促進、テロメアを短縮します。また短時間睡眠の人もテロメアが短いことが報告されています。老化をコントロールしていると考えられる因子に長寿遺伝子(サーチュイン遺伝子)があります。サーチュイン遺伝子はテロメアが短くなるのを抑えることが判明しています。サーチュイン遺伝子もカロリー制限、運動で活性化、肥満、喫煙で不活化します。

 テロメアを長くする食事は抗酸化効果のある和食、地中海食です。青魚に含まれるω3脂肪酸、DHA、更には豆、魚、海藻、果物、乳製品がテロメアを長くするとされています。テロメラーゼを活性化して老化を予防する試みもなされていますが、テロメラーゼを活性化すると細胞の老化防止以外、正常細胞をガン化するリスクも増大するので議論のある所です。

 テロメア短縮を防ぐサプリとしてはマルチビタミン、ω3脂肪酸、亜鉛、マグネシウム、コエンザイムQ10、アルギニン等があります。特にアミノ酸であるアルギニンは内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)を活性化、一酸化窒素(NO)生成を促進、NOはテロメラーゼを活性化します。またアルギニンは糖化抑制によりサーチュイン遺伝子を活性化、更には成長ホルモンの分泌も増やすので、老化進行予防に有効と考えられています。

 以上、テロメア説について記載しました。この説からも老化予防に重要なのは酸化ストレスの軽減、禁煙、適正な体重・睡眠、糖化の予防、運動、食事のようです。最近では唾液による遺伝子検査でテロメアの長さを知ることが可能になっております。しかしテロメアの長さを測定しても、生活習慣等を整えなければ意味がないと思います。