ぢ(痔)でお悩みの方へ

理事長の顔写真

松澤 克典

小白川至誠堂病院 理事長
日本外科学会認定 外科専門医
日本消化器外科学会認定 消化器外科専門医

 

 


 

ぢ(痔)には様々な種類、程度があり、痛みのあるものやないもの、出血のあるものやないものなど症状もまちまちですが、軽い場合は自分で適当に処理をして済ませている人が多いようです。
しかしお尻はデリケートな場所ですから、痔がだんだん進行すると非常に不快で苦痛なものになり、ついには手術をしなければならないことにもなります。また便に血が混じっているのを、「どうせ痔だろう」と放っておいたら実は直腸がんだった、などという怖い話も決して珍しいものではありません。ですからちょっとでも「痔があるのではないか」という不安のある方は、ひとりで悩まずに一度専門医の診察をお受けになってみてください。
日本人が最も多くかかっている病気は虫歯だそうで、2番目が痔ということです。自分でも気付かないで痔を持っているような、潜在的な「痔主(ぢぬし)」を含めると、日本人の約7割がなんらかの痔を持っていると推計されるそうです。ですからあまり恥ずかしがらずに、気軽に外科外来を受診してみてください。痔の治療をされた多くの方が、「これだったらもっと早く受診しておけばよかった」とおっしゃるようです。

痔の病気は「痔核(ぢかく)」「裂肛(れっこう)」「痔瘻(ぢろう)」の3つに大別されます。

痔核について

痔核(ぢかく)はどんな病気ですか。

いわゆる「いぼ痔」です。痔核は内痔核(ないぢかく)と外痔核(がいぢかく)に分けられます。肛門の奥の方にあり出血が強い代わりに痛みは少なく、排便のたびに出てくるようなものを「内痔核」といい、最初から肛門の外(というか辺縁の部分)にあり痛みの強いようなものを「外痔核」といいます。

外痔核は痛みが強いので、外来にいらっしゃる患者さんも重症感が強いのですが、入院しなければならないようなことは少なく、外来で切開処置を行えば、あとは数日間の通院でよくなってしまうことがほとんどです。一方内痔核は、程度によっては根治手術が必要となります。内痔核は重症度によって以下の4段階に分類されます。

I度:排便時に出血が見られますが、痔核が肛門の外へは脱出しません。
II度:出血に加え排便時に痔核が肛門外へ脱出しますが、お尻をキュッと締めると自然に中に引っ込んでしまうようなものです。
III度:排便時に脱出した痔核が、指で押し込まないと元に戻らないものです。
IV度:排便の時だけでなく普段も痔核が脱出したままのもので、俗に「脱肛」ともいい、年配の方に多い症状です。

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痔核(ぢかく)の原因はなんですか。

痔核の原因はいろいろあります。便秘、お酒、冷え、妊娠、分娩、長時間の座り仕事、力仕事などがよくいわれています。「子供を産んでから痔になった」という女性は非常に多いのですが、なんといっても最も多い原因は便秘です。便秘で力んだ際に肛門の静脈がうっ血、拡張し、痔ができてしまいます(ですから痔核の正体は静脈瘤という血管のコブなのです)。


 

手術は必要ないような軽い内痔核の治療法はどうすればいいのですか。

坐薬や軟膏の薬を医師の指示通りにしっかり使うことはもちろんですが、軽度の痔核を治す基本は3つあります。すなわち、

  1. 肛門を清潔にする。
  2. 血液循環をよくする。
  3. 便秘をしない。ということです。

1.の清潔については、
肛門が汚れていると感染が起きやすくなり痔核を悪化させやすくなるということです。その意味で自動洗浄器(ウォシュレット等)付きのトイレは痔の方に非常に有用です。しかし価格的に安いものではないですから、無理をしてまで備え付ける必要はないでしょう。排便後は紙で拭くだけでなく、お風呂場でぬるま湯を使ってお尻を洗うというような習慣をつければよいと思います。

2.の血液循環は、
入浴で全身の血行をよくして肛門のうっ血を取るということがよいでしょう。またお風呂の中で肛門をキュッと閉じたり開いたりする体操もやってみましょう。この体操は肛門括約筋の弾力性を強めるので痔の脱出が防げますし、うっ血も取れるので痔そのものの予防にも役立ちます。

3.便秘については、
食事に気をつけ(食物繊維が有効です)適度な運動を心がけて下さい。便秘の強い患者さんに下剤を処方すると「癖になるといやだから飲みたくない」という方がいますが、痔が悪化して手術をしなければならなくなるよりは、薬を飲んだ方がよいのではないかと私は思いますが・・・。また便秘症の子供などにお母さんが、排便の習慣をつけるためでしょうが、「便が出たくなくても、毎朝10~15分位トイレで力んでみなさい」などと指導(?)していることがありますが、これは無用な力みやうっ血を促す結果になりかえって逆効果です。食事に気をつけて野菜や果物、適度の油を摂らせるようにしましょう。

裂肛(れっこう)について

裂肛(れっこう)とはどんな病気ですか。

いわゆる「切れ痔」です。原因はやはり便秘で、若い女性に比較的多くみられます。とはいっても「硬い便が出てお尻に鋭い痛みが走り出血する」というようなことは、誰でも1年に1回位は経験することだとは思いますが。裂肛で手術が必要になるようなことは比較的稀ですが、中には慢性の裂肛のため肛門が狭くなってしまい、排便時の痛みが強すぎて、肛門括約筋の切開手術が必要となってしまうことがあります。
前項で述べたように、便秘に効く食事は野菜や果物の他に適度な油分です。若い女性で無理なダイエットをして油を控えすぎると大抵便秘になるので注意しましょう。また一般の方は「理想的な便」というと、いわゆるバナナのような形、固さを連想されることが多いようですが、痔を持っている方はもう少し柔らかめ(具体的にはチューブの歯磨き位)を目標にされた方がよいです。

痔瘻(ぢろう)について

痔瘻(ぢろう)とはどんな病気ですか。

俗に「穴痔」といい、お尻の中でだんだんとそのトンネルを進めていく、まるでもぐらの穴掘りのようなやっかいな痔です。なぜこのような痔ができるかというと、直腸と肛門の間には歯状線という部分があるのですが、この歯状線には全周に渡って10~12本の肛門小窩(こうもんしょうか)というくぼみがあります。そのくぼみに便が溜まる(残る)と炎症が起き、さらに化膿して膿が溜まり、徐々にトンネルのように皮膚に繋がっていき、痛み、発熱を伴う「肛門周囲膿瘍(のうよう)」を形成します。肛門周囲膿瘍は痔瘻の前段階というようなもので、かなり痛みますからまずは炎症を治めるために外来での切開処置が必要となります。切開して膿を出すととても楽になるので、患者さんはこれで治ったと思いこみがちですが、残念ながらこれだけで完全に治る人はかなり運のいい人です。通常これは急性炎症が治まったというだけで、もぐらの穴は徐々に細くなって直腸肛門管と皮膚の間に瘻管という細い管が残り、これが痔瘻の本体となります。

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痔瘻とは具体的にどんな症状となるのですか。

肛門周囲膿瘍が治まってしまえば痛みはあまり強くなく、発熱や出血もありません。お尻の穴のすぐ近くに小さな穴があり、そこから膿が出るので下着に小さなシミが付くようになります。しばらくすると膿が出なくなるので「治ったのかな」と思っていると、1ヵ月もするとまた同じような膿が下着に付くという感じで、軽快、再燃を何度も繰り返すのが特徴です。
昔は結核の人に多い病気とされていたのですが、現在はどのような人でも起きるといわれています。ただし男性が女性の5倍近い割合で多く罹患するといわれ、比較的体の大きい、健康で肛門括約筋の力の強い方に多い傾向があります。残念ながら痔瘻の予防法というのはほとんどないのですが、肛門小窩という小さなくぼみに便が溜まることがきっかけとなるわけですから、下痢しやすい方は要注意です(ゆるい便の方がくぼみに溜まりやすいですから)。「働き盛りの男性で、体格も良く病気ひとつしたことが無いのだが、お腹だけは弱くて下痢することが多い」などというタイプの方は、痔瘻の典型的な患者さんです。また糖尿病の方は重症化しやすい傾向があります。

治療法はどうするのですか。

痔瘻の治療は手術しかありません。瘻管の部分をしっかり切り取らないと、いくら坐薬や軟膏を使い続けても、いつまでも膿が出続けることになります。また痔瘻は稀にガン化することがありますので、手術がいやだからといって民間療法などに頼っていると悲劇的なことになることがあります。痔瘻のなかには「複雑性痔瘻」といってトンネルが曲がりくねっているようなやっかいなものもありますので、専門医の診察をぜひ早めに受けていただきたいです。

痔の手術について

痔の手術はかなり痛いと聞きますが大丈夫でしょうか。また入院期間はどのくらい必要でしょうか。

肛門は人間の体の中で最も敏感な部分のひとつです。ですから「痔の手術が痛い」というのはある程度は本当のことです。もっとも手術中は麻酔をしていますし、手術終了時に痛み止めの坐薬を使いますから、この時期はあまり痛みはありません。しかし手術翌日からは食事も始まりますので、2~3日も経つと当然ですが便が出ます。その際、便は手術の傷口を擦れるように出ますから、そのときに痛みを訴えられる方が多いようです。痛みの程度には個人差があり、やはり重症の痔の方ほど手術後の痛みは強い傾向にあります。しかし患者さん方の話を総合すると「痛いことは痛いが、思ったほどではなかった」とおっしゃる方が8割以上のようです。
また肛門は人間の体の中で、最も出血しやすい部分のひとつでもありますので、手術後も傷から出血する可能性があります。ですから軽い痔の場合はともかく、ある程度以上の痔の方は手術後に約1週間は入院していただき、術後出血がないかどうか確かめるというのが現代の医学の常識的な考え方です。
ただ、最近は痔核の新しい治療法として、ジオンという薬剤を使用した硬化療法(ALTA療法)が行われるようになってきました。当院でも平成23年初めより導入しておりますが、入院期間も短く、手術後の痛みも少ないということで、とても優れた治療法だと思います。残念ながらすべての痔核に対してALTA療法ができるというわけではないのですが、ご興味のある方はいつでもご相談ください。
手術前の入院期間は健康な方なら手術の1~2日前でいいのですが、高齢の方の場合は念のために手術前に大腸の検査を行うことをお勧めしています。「肛門出血で外来を受診された方のお尻を診察すると、確かに内痔核があるのだが、その奥にも別のしこりがあった」などという話は決して珍しくありません。大腸の検査は世間でいわれているほど苦しいものではないですから、ぜひお勧めしたいです。
ですから痔で手術する場合の入院期間は、術前術後を合わせて約1週間(ALTA療法の場合はより短縮されます)といったところですが、これはあくまで軽症~中等症の方の場合です。複雑性痔瘻があったり内痔核もかなりひどかったりすると、3~4週間の入院が必要となってしまう場合も少なくありません。

退院した後の通院はどうするのですか。また痔が再発してもう一度手術が必要になったりすることはあるのですか。

退院した後は傷のチェックをしますので、1~2週間後に外来に来ていただきます。傷が完全に良くなればもう頻回の通院は必要ありませんが、手術するような痔のある方は慢性の便秘症であることが多いので、定期的に下剤を処方する場合が少なくありません。
きちんとした痔の手術をした方が、またもう一度手術が必要になるようなことは通常はありません。しかしあまり便秘が強かったりすると、違う場所から別の痔が出てくることがあります。また複雑性痔瘻などでは傷の治りが悪く、再手術が必要になるようなケースもたまに見られます。ですから痔で手術された方は1年に1~2回は外来に顔を見せていただき、お尻を診察させていただきたいです。
痔を専門にしているのは外科医なので、患者さんの中には外来に行ったら即手術をされるのではないか、と怖がって受診されない方もいるようです。しかし痔で外来に受診される方のなかで、本当に手術が必要な方は2~3割といったところでしょうか。しかも痔瘻の場合は別にして、痔核や裂肛はそれだけで命に関わるような病気ではないですから、いくら第3度の内痔核だといっても、本人が絶対手術はいやだというのを無理矢理切るようなことはしません。
また歳をとればとるほど肛門の締まりが弱くなりますから、痔の治療は難しくなります。長年悩んだ末に、せっかく受診を決意したときにはもう手遅れ、などという笑えない話もよくあります。ですからどうぞ怖がらずに一度専門医の診察をお受けになってみて下さい。