帯状疱疹を発症する人が増えています。帯状疱疹は東北地方、北関東では「つづらご」とも呼ばれ、皮膚病変改善後も難治性の神経痛が残りやすい疾患として昔から知られていました。今回は帯状疱疹について記載します。
帯状疱疹はヘルペスウィルスである水痘・帯状疱疹ウィルスvaricella-zoster virus(以下VZV)初感染後の再活性化により起こります。VZVは上気道から感染すると皮膚の上皮細胞で増殖、約2週間後、水痘を発症します。皮膚病変が治癒してもVZVは皮膚病変部の知覚神経終末から神経細胞内に侵入、神経軸索を通して脊髄後根神経節、三叉神経節などに潜みます。これを潜伏感染と言います。加齢、ストレス、ガンなどにより宿主の細胞性免疫力が低下するとVZVは再活性化、神経節の知覚神経支配領域の皮膚に運ばれ帯状疱疹を発症します。
ヘルペスウィルスには9種類あり、潜伏先により3つの亜種に分類されます。潜伏先には神経節、単球・マクロファージ、B細胞があります。VZVと同じく神経節に潜伏するヘルペスウィルスには単純ヘルペスウィルス1型、単純ヘルペスウィルス2型があります。初感染で1型は主に口唇ヘルペス、2型は性器ヘルペスを発症します。発症後、1型は三叉神経節、2型は仙骨神経節に潜伏、回帰発症で1型、2型とも初感染と同じ口唇ヘルペス、性器ヘルペスを発症します。回帰発症はヘルペスウィルスの特徴ですがVZVでは初感染が水痘、回帰発症が帯状疱疹となります。日本人の50才以上のVZV抗体保有率は90-100%との報告があります。すなわち50才以上の大部分の人はVZV初感染済であり、加齢などによる細胞性免疫力の低下で帯状疱疹の発症する確率は増大します。
帯状疱疹の症状は痒みやチクチク、ピリピリとした局所の疼痛から始まり、時間経過で知覚神経の支配領域に沿って帯状に紅斑、丘疹、水泡、膿疱が出現、次第に痂疲を形成、約3週間の経過で皮膚病変は治癒します。発症初期は局所疼痛のみの場合もあります(急性帯状疱疹痛)。この時期での診断は難しく、疑いがある場合は皮膚病変が出現してこないかに注意、紅斑、丘疹などが見られたら再受診することが重要です。疼痛出現後、始めに受診した医師に神経痛、腹痛と言われ、改善しないので後日、他の医師を受診、帯状疱疹と診断されることはよくあります。なお帯状疱疹はVZV感染済の人には感染しませんが、未感染の乳幼児には感染する可能性があり注意が必要です。
帯状疱疹の早期診断、早期治療は重要です。治療は抗ウィルス薬で経口剤、点滴があります。帯状疱疹後の神経痛が3ケ月以上続く場合を帯状疱疹後神経痛(Postherpetic Neuralgia : PHN)と言います。帯状疱疹後PHNに移行する割合は約2割であり、加齢により移行率は増加します。
帯状疱疹の予防は食事、運動、睡眠、ストレス回避など細胞性免疫力が低下しないような日常生活の注意が重要です。最近の帯状疱疹発症率の増加は平成26年に小児水痘ワクチンが定期接種化され水痘が激減、高齢者がVZVに追加感染して免疫のブースター効果を得る機会が減少したことが大きな原因と考えられています。この感染機会の減少によるVZVに対する中和抗体値低下を補う為、帯状疱疹のワクチン接種が50才以上の人を対象に可能になっております。ワクチンには水痘ワクチンと不活化ワクチンがあります。平成28年から接種可能になった水痘ワクチンは幼児の定期接種に使用されているワクチンです。水痘ワクチンは弱毒水痘ウィルスを含んでおりVZVに初感染してない人では通常の副反応以外、水痘様発疹が見られる場合があります。しかし弱毒生ワクチンによるものなので発疹は軽いとされます。水痘ワクチンは発疹以外の副反応が少なく1回接種で済むメリットがありますが、発症予防効果は60才以上で51.3%、接種8年後の長期予防効果は31.8%と低く、妊婦、細胞性免疫力が低下している人は接種できません。令和2年より接種可能になった不活化ワクチンは病原性を不活化しているワクチンです。帯状疱疹予防効果は強くPHNの予防効果も高いとされます。不活化ワクチンの発症予防効果は70才以上で97.9%、接種8年後でも80%以上の高い長期予防効果があるとされます。しかし値段が高く発疹以外の副反応が水痘ワクチンに較べやや多く、2ケ月おいて2回接種しなければならない難点があります。なお当院でも帯状疱疹ワクチン接種は予約で受け付けております。